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最近、「もっと勉強して経営知識を増やさねば」という不安感、焦燥感にかられているビジネスパーソンによく出会う。
今でも時々、こういう夢を見る。
夢なのに、実際に動惇が高まったり、あちこちの筋肉がぎゅっと硬くなったりして、大抵は眼が覚めてしまう。
「まだこんなに」の部分が結構具体的で、「日本史が、古代から始めてまだ江戸時代初期までしか進んでない。
あれもこれも、まったく暗記できてない」といった具合だ。
大学受験から三○年たっても、こういう夢を見続けるというのは、一体どういう仕組みなのか。
おそらくは、勉強不足から来る不安感が高じて、一種の強迫観念になっているのだろうけれど。
「大学の入学試験はもうすぐそこに迫っているのに、まだこんなに勉強することが残っている。
どうすればいいんだろう」では、勉強を通じて経営知識を詰め込んでいけば、仕事で成果が出せるのだろうか?ビジネスリーダーになれるのだろうか?もちろん、そんなはずはない。
ビジネスリーダーとしての力を磨くためには、一定の経営知識が必要だ。
しかし、正しい意思決定を行い、組織を実際に動かし、そして結果を出していくには、知識をどう「使う」か、という能力が不可欠だ。
スポーツでも、音楽や踊りといった芸事でも、一定の知識を得たら、その知識をどう使って、よりよいパフォーマンスをあげるかに、努力の中心が移っていくはず。
私の夢の場合と同じで、「詰め込むべき知識がまだまだある」「それを詰め込まなければ、仕事で成果が出ない」「望んだ仕事にも就けない」という強迫観念にとらわれているようで、ものすごく勉強熱心な人が多い。
戦略論の講演を聴いて、いきなり「ブルー・オーシャン戦略とバーニーのリソース・ベースト戦略の共通項は何ですか」などといった質問を投げかけてくる、一種、ビジネス勉強オタクのような人までいる。
成果主義の名の下に、同じ経験年数でも報酬や処遇に大きな差が出る時代になった。
多くのビジネスパーゾンが、もっと勉強せねば、経営知識をもっともっと獲得せねば、という不安感に苛まれるのも、よくわかる。
でも、本当に大事なのは、「知識」×「使う力」で結果を出すこと。
「知識」と「使う力」は掛け算なので、「知識」が一○○点でも「使う力」が○点なら、まったく結果につながらない。
見落とされている「使う力」に焦点をあて、どう「使う力」を身につけていくかを考えていきたい。
仕事もまったく同じなのに、勉強して得た知識を「使う力」について、意識している人が少ないのには、驚かざるをえない。
どこまで行っても果てしのない「知識習得の広大な砂漠」に迷い込み、不安感いっぱいで生きていくことはやめよう。
適切な知識を得たら、「使う力」の達人になって、結果を出すことに集中する。
ビジネスパーソンが仕事に役立つことを勉強しようと思ったとき、最初にしなければならないのは、何をどこまで学ぶか、その範囲を定めることだ。
ギリシア神話にあるシシュフォスの話をご存知だろうか。
ゼウスたちを騙したシシュフォスは、罰として岩を山頂に押し上げるよう命じられた。
ところが岩は山頂に達すると、すぐに転がり落ちてしまう。
つまりシシュフォスは、永遠に岩を押し上げ続ける刑に処せられたのだ。
シシュフォスの辛さは、単に重い岩を押し上げていく肉体の辛さだけではない。
一体この辛い労働がいつまで続くかわからないという不安。
さらには、自分の労働、すなわち岩を押し上げていくという行為が、一瞬のうちに無駄になってしまうというむなしさ。
こういった精神的な辛さこそが、シシュフォスに与えられた刑の本質だ。
目標もなく勉強するのは、このシシュフォスのようなものだ。
一体どこまで何を勉強すればよいのかが決まっていないと、不安感は永遠に続く。
次から次へと、新たな理論や知識が紹介されるたびに、「これまでの勉強は何だったんだろう」と打ちのめされる。
ビジネスリーダーと一口に言っても、さまざまなタイプがいる。
綿密な思考と戦略眼で競争相手を引き離すタイプ、強烈なリーダーシップで大きな部隊をぐいぐいと引っ張っていくタイプ、などなどいろいろな人が存在する。
だが、これまで私がコンサルタントとしてお会いしてきたビジネスリーダーは、一見それぞれ個性的なようでいて、実は必ず共通する要素を持っていた。
私はこれを、強いビジネスリーダーの基本要件と呼んでいる。
このような状況から抜け出すには、目標とそこに至る道筋をはっきりさせることだ。
これさえあれば、あとどれくらいで目標に手が届くということが実感できるし、これだけ目標に近づいたという達成感も味わえるから、シシュフォスのようにならなくてすむ。
この本では、ビジネスリーダーになることを目指している皆さんを読者として想定しているので、ビジネスリーダーの基本要件をまずご提示しよう。
この基本要件を理解した上で、自分の現状と照らし合わせることで皆さん自身の目標設定が可能となる。
その上で、どういう順番で何を身につけていくか、という道筋を考えれば、万全だ。
ビジネスリーダーの基本要件は四つの要素から成っている。
「人間力」「業界・社内常識」「経営知識」「使う力」の各要素だ。
では、それぞれを具体的に見ていこう。
まずは「人間力」。
正しい決断を下し、組織を動かし結果を出していくビジネスリーダーは、例外なく高いレベルの「人間力」を持っている。
人がひとりひとり異なるように、リーダーの「人間力」にもさまざまなものがあるが、多くの成功したリーダーに共通しているのは、何かを成し遂げようとする強い「思い」。
英語で言えば、アスピレーションという言葉がこれにあてはまる。
リーダーになっていくためには、さまざまな努力をし続けなければならないし、たとえリーダーになった後でも、さらに上を目指して、自分と周囲を鼓舞し続けなければならない。
このためには、強い意志力が必要だが、この源泉には必ず強い「思い」がある。
「思い」自体がどこから来るのか、この深い洞察は、心理学の専門家にお任せすべき事柄だろうが、今までお会いした経営者の方々の場合、実に千差万別、さまざまな理由から強い「思い」を持つようになっているようだ。
幼少期に親が事業に失敗した、家が貧しかった、という辛い体験をバネにして強い「思い」を持たれた例もあれば、思春期に強烈なリーダーに接する機会があり、どうしてもああいうふうになりたいという「思い」で自分をドライブしてきた例もある。
面白いのは、この強い「思い」は成功するにつれ、個人的なものから次第に昇華されて、普遍的なものになっていくことだ。
まずは、自分の配下にある組織のメンバーを幸せにしたい、という利他の「思い」。
さらに、企業活動を通じて社会に貢献したいという「思い」。
こういった具合に、何らかの個人的な強烈な「思い」が、次第に公的なものに変質していくのが、成長し続けるリーダーの特徴のようだ。
「人間力」には、当然「思い」以外の要素もいろいろある。
たとえば、意思決定にあたって、自分自身のモノの見方に偏りがないか、いったん自分自身を客観的に突き放す力。
論理ではなく、人間性そのもので、周囲を自然とその人の指し示す方向についていかせる力。
あるいは、自ら学び続け、成長していくことを可能にする自己向上力。
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